インタビュー

表皮水疱症の再生医療(自家培養表皮移植)【特別トークセッション 第4回】

表皮水疱症の再生医療(自家培養表皮移植)【特別トークセッション 第4回】

国内での実施例がいまだ数十例に留まる、表皮水疱症の「自家培養表皮移植」。先進的な選択肢である一方、未知の治療に対する医療者側の心理的ハードルの高さも課題となっています。本連載では、自家培養表皮移植による再生医療を行う蒲郡市民病院の医師、皮膚・排泄ケア認定看護師、高校2年生の当事者・山崎璃斗さんとお母様をお迎えしたトークセッションの模様を全4回でお届けします。連載最終回は、璃斗さんが経験した再生医療について詳しく伺います。

久保 良二,藤田 順子,山崎 璃斗,山崎 奈美
久保 良二(くぼ りょうじ)先生
蒲郡市民病院 皮膚科 部長。日本専門医機構認定皮膚科専門医。専門領域は乾癬、白斑、褥瘡。名古屋市立大学医学部臨床准教授、蒲郡市民病院特定認定再生医療等委員会委員。

藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん
蒲郡市民病院 看護部/皮膚・排泄ケア特定認定看護師。山崎璃斗さんの同院での初めての手術をきっかけに介入を開始。
 
山崎 璃斗(やまざき りと)さん
栄養障害型表皮水疱症の当事者。現在はS高等学校(通信制)の2年生。
幼少期より皮膚や粘膜の脆弱性に伴う広範な創傷や、関節の拘縮(屈曲変形)などの症状を抱えながら療養を継続。2020年より蒲郡市民病院にて自家培養表皮による再生医療を複数回受けている。

山崎 奈美(やまざき なみ)さん
璃斗さんの母 / 看護師・DebRA Japan(表皮水疱症友の会)所属。璃斗さんの誕生直後から日々の洗浄・ガーゼ処置・栄養管理を担ってきた。最新の知見を集めながら、在宅ケアを実践。救命救急受付の仕事に就いている。

取材協力
蒲郡市民病院
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)

※本文中一部敬称略
※本記事は、2026年6月4日時点の情報をもとに構成しています。

表皮水疱症における再生医療の位置づけ

――璃斗さんは、今回の治療をきっかけにQOLの変化を実感されたと伺っています。まずは、表皮水疱症における再生医療(自家培養表皮移植)がどのようなものか教えてください。

久保:  表皮水疱症において、再生医療は心強い存在になり得る治療法と考えています。流れとしては、治療が決まったらまずご本人の皮膚を小指の先くらい(約2平方センチメートル)採取します。それを再生医療メーカーの担当者さんに渡して約4週間かけて培養してもらうと、50枚ほどの表皮シートができるんです。出来上がる時期に合わせてご本人の入院日やどこに何枚移植するかを調整し、手術を行います。

――患者様ご本人の皮膚を使用する治療法ということで、特性やメリットがある一方で、今後の普及にあたっての課題などはどのような点にあるのでしょうか。

久保: 現実的にこの治療がそれほど広がっていないのは、患者様に提案する以前に「医療者側が最初の一歩を乗り越えられない」問題が大きいからです。医療者の多くが実際にこの病気を診たことがない上に、再生医療という「やったことがない最先端の治療」を行うわけですから、重い腰が上がらないのです。当院が実践できているのは、病院や行政が再生医療に非常に協力的で、再生医療メーカーが近くにあるという点が大きいでしょう。

再生医療を選択した経緯

――当時、お母様や璃斗さんご自身には、治療法の選択について迷いや葛藤はありましたか。

山崎(母): 表皮水疱症は症状がつらい病気ですから、なんとか良くしてあげたいという思いでずっと治療は検討していました。DebRA Japan(表皮水疱症友の会)がいつも最先端の医療情報を発信してくれていたので、大変参考にしていました。当時は再生医療のほかに骨髄移植の治験が始まるというお話もあったのですが、海外のデータも参照しながら、リスクと照らしあわせて我が家の場合は見送りました。本人の皮膚を用いた再生医療という新しい選択肢があり、それを地元の蒲郡市民病院で受けられると分かった時は、この治療を選ぶことに迷いはありませんでした。

――実際の治療の流れや、入院中の璃斗さんの様子はいかがでしたか。

久保 良二(くぼ りょうじ)先生 山崎 奈美(やまざき なみ)さん 山崎 璃斗(やまざき りと)さん

山崎(母): 最初は全身麻酔で、一気に数十枚の移植をしていただきました。まだ子どもだったので私も布団を持って行って、1週間以上一緒に病室で寝泊まりしていましたね。

璃斗: 手術が終わった直後は、移植したところが動かないように全身ガチガチに固められるので、まったく動けなくなるのがつらかったです。あとは、全身麻酔のあとの吐き気や抜糸の痛みもきつかったですね。

久保: 全身麻酔の時は、一度にたくさん移植していたので、抜糸もかわいそうでしたね…。小児科の先生にお願いして、強い鎮痛薬を使ったこともありました。最近は璃斗くんも大きくなって全身麻酔が難しくなり、ご本人も頑張ってくれるようになったので、局所麻酔で1枚〜2枚をピンポイントで移植するスタイルに変えています。

歩けることがうれしい。治療後の生活の変化

――再生医療を受けて、璃斗さんの日常生活にはどのような変化が現れましたか。

璃斗: まずは手術後に皮膚の状態も落ち着いて、負担を感じず歩けるようになったと思います。気持ちの面でもストレスなく、外に出られるようになったことが、一番嬉しい変化ですね。

山崎(母): 再生医療を受ける前は、膝や足の指を動かすのも大変だったもんね。それが、自家培養表皮移植を受けて皮膚の状態が落ち着いてからは、歩行がとても自然に行えるようになったんです。

久保: 最初に来られたころに比べると、歩き方や歩行の様子がスムーズになり、確かな変化を感じています。また皮膚の状態が安定したことで、栄養バランスも整いやすくなり、身長や体重といった体の成長も感じ取ることができています。

藤田: 初めて会ったときから、約30㎝身長が伸びていますから…本当に大きくなりましたよね。私たちにとっても璃斗くんの成長はとても嬉しいです。

藤田 順子(ふじた じゅんこ)さん 久保 良二(くぼ りょうじ)先生

在宅支援のこれから「医療と生活をつなぐ役割」

――璃斗さん、蒲郡市民病院の医療者の方々にメッセージをお願いします。

璃斗: 僕を担当してくれた久保先生や藤田さん、病棟の看護師さんたちは、血圧を測る時もチューブ包帯を巻いて傷つかないようにしてくれますし、何かをする前は必ず声をかけて確認してくれます。いつもすごく気にかけて優しく声をかけてくれてありがたいです。

――ありがとうございます。最後に、藤田さん、久保先生、お母様から他の医療者に向けたメッセージをお願いします。

藤田: 私は、表皮水疱症のケアにおいて多職種連携が何より大事だと学びました。看護師1人だけでは絶対にできませんでした。病棟スタッフ、主治医、他の看護師、栄養士、再生医療メーカーの担当者さんなど、本当にいろんな方に助けてもらいました。

訪問看護師の皆さんも、自分たちだけで抱え込まないほうがよいと思います。心配な時は認定看護師の同行訪問などの制度を活用し、専門の看護師を巻き込むのもひとつの手です。表皮水疱症の患者様は、普段のケアを少しストップするだけで一気に悪くなってしまう特殊性もあります。1人で抱え込まずに、みんなで支える体制を作ってほしいです。

久保: 藤田さんも言っている通り、表皮水疱症は多職種で見ていく病気です。医師の場合も、再生医療に取り組みたい場合、1人で始めるのではなく、病院全体を巻き込んだ「チーム」で始めてほしいですね。まずは「お試しで2枚だけやってみよう」というくらいのスモールスタートで、一歩を踏み出してほしいなと思います。

山崎(母): この病気は本当に毎日が痛みの連続です。その痛みを少しでも軽減できる治療があるなら、チャレンジしたいと思う人が多いでしょう。ただ、全国的にはまだまだ治療を行っている病院が少ないので、少しでも多くの医療者の方に理解いただき、「こういう治療があるよ」とご本人やご家族に提案してもらえる世の中になったらうれしいなと思います。

また、我が家は訪問看護を利用するチャンスがありませんでしたが、子どもが小さいころはお風呂に入れるだけでもパニックで、「目を離したら万が一のことがあるのでは」と毎日神経をすり減らしていました。訪問看護師さんが来てくれて、ガーゼを巻くのを手伝ってくれたり、お話を聞いてくれたりするだけでも、ご家族の心はものすごく楽になると思います。「やりに来るだけ」じゃなくて、親の精神を支えてくれるような訪問看護師さんが地域に増えてくれたら本当にありがたいです。

――大変貴重なお話をありがとうございました。

取材・執筆・編集: NsPace編集部

【参考】

〇難病情報センター「表皮水疱症(指定難病36)」
https://www.nanbyou.or.jp/entry/5338
2026年8月12日閲覧

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